「 安 息 」
お疲れさまです、リクオ様と、囁く声がする。
三代目を継いで奴良組の総大将となって、妖怪と人を守って、
ああ、氷麗。ちょっとばかり疲れてんだ。
柔らかで、ひんやりした膝の上が心地よく、ほっと息をつく。
言っとくが弱音じゃねーぞ?
ただちょっと一息つきたいだけだ。
「ええもちろんわかってますよ」
そんな穏やかな声にそっと笑む。
ずっと、それこそ生まれた時から、変わらない姿で傍にいる雪女。
このオレを、時に叱り、
時にこうして甘やかすことのできるのはおまえだけなんだ。
「どんな存在もおまえに敵わねーな」
そう言えば、くすりと笑って、
「まぁ、若菜様には敵いませんよ」
と、おまえは言うけれど、
オレのガキの頃の思い出の中じゃきっと母親よりも一緒にいたはずだ。
いささかむきになって反論する自分はやはり甘えているんだろうが。
思わず苦笑していると、
「それに、あの幼馴染の娘もいるじゃないですか」
などと、なにやら少し低い声でそう言われ、
おや?と閉じていた目をあけて上を見上げてみる。
むうっと唇を突き出して、いやおまえ、ほんとに歳いくつだ?と
聞いたら氷付けにされるのが落ちだろうが。
「オレをこうして甘やかしてくれんのは雪女の姐さんだけだろ?」
今更母親は論外だし、
幼馴染に己が、というのもまったく想像できない。
オレはじじぃや親父とは違いこの歳で組を継いだ若造だ。
大戦を前に、百鬼を従え突き進む己の力を少しでも伸ばし、
畏れを、と気の焦ることもある。
けれど弱音など吐けない。弱みなど見せない。
「それとも、いやなのかい?」
「そんなわけないじゃないですか!」
「そりゃあ良かった」
「も、もう、いいですからお休みください!」
「おう」
そして柔らかな膝の上、また目を閉じる。
母親にも幼馴染にも、できないことをお前だけができるのだと、
この女は理解したのだろうかと、ふと思うが、
なにもかもは、全てのかたがついてからだろう。
そうしたら、氷麗。おまえに言いたい事がある。
きっと、それを言ったらおまえはまた泣くんだろうな。
なぁ、オレの雪女。
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