というような感じのシーンを描きたいなと思った。

思って話しを繋げてみた。

「漫画・・・・・・うん無理」 と早々に悟り、

SSにしました・・・・・。

読んでやろうという方はそのまま下へ












〜守りたいもの〜












雪女!という声がする。

ようやく来てくださったのだと、そう思った途端体中の力が抜け落ちた。













校外での活動はしばらく控えるようにと、

ここのところのなにかと物騒な事件が起きていて

教師からも注意されていたはずなのに、なぜ。

錦鯉地区からの帰路、彼らの姿を偶然みとめた氷麗は、

残念ながら止める術を持たず、このまま放っておいて何事かあっては

大事と、彼らの後を追ったのだった。

清十字怪奇探偵団という時代かかった名を持つ彼らこそ

氷麗の主の大事な友人達であるのだから。

日が暮れる。

妖たちの時間が始る。

そこで危惧は現実となる。

追ったそこで、彼らは妖怪に襲われてしまったのである。

守りながら戦う。

仮にも奴良組三代目の百鬼が一鬼、常ならば相手に遅れをとるなど

余程の物でもない限りなかった事だろうに、

だが今夜の相手は運の悪いことに火を操る化け物であったため、

苦戦を強いられることとなった。その上次から次へと沸いてくる。

もう少し、きっとじきに仲間がやってくる。

己が力を過信してはならぬと、化け物に遭遇した時点で

氷麗は本家に使いを飛ばした。

袖に潜ませたる千代紙で折られた折鶴にふうっとひとつ息を吹きかければ、

途端それは命を得、ぱたぱたと月かかる空に羽ばたいた。

そして今、氷の薙刀を手に、人と化け物の間に立ち塞がったのだ。




清十字怪奇探偵団のリーダーである清継にとって、

眼前のそれは血湧き肉踊る瞬間だっただろう。

妖怪だ。妖怪が目の前にいて、僕らを守るように戦っている。

まるであの小学生の時のようではないか。

もしかしたら主だって現れるかもしれないぞと。

そんな期待を込め、瞳を輝かせ、その戦いに魅入っていた。

その戦う主が雪女であると気づくまでは。


彼らを背にそれこそぼろぼろになりながら、

彼らを守るように作られた氷の壁の前で倒れても倒れても立ち上がるのは

雪と氷を操り、黒く長い髪をなびかせ、白い着物を纏う女妖怪。

なぜすぐに気づかなかったのだろう、これが「雪女」であると。

そんな彼の目の前で「雪女」が攻撃をくらい身体をよろめかせる。

「も、もういいやめてくれ、僕らなら大丈夫!こうみえても逃げ足は速いんだ!」

「そ、そうだよ、もういいよ、やめて」と清十字団のメンバーである

カナが鳥居が巻が、叫ぶ。

たとえ相手が恐ろしい妖怪でも自分たちを守ろうと傷だらけになっているのだ。

どの目にも涙が滲む。

雪女の足もとにぽとりぽとりと雫が落ちる。

血ではない。だが雪女にとっては同じもの。

闇に響くは「融けて崩れて地へ還れ」とけたけたと笑う声、声。

それにきっと眦をあげ、ほほほと鈴を転がしたような声で女怪は笑う。

己が主の許しも得ず、誰がこの身を滅ぼそうか。

たとえ雪の一欠けらとなろうとも主の下へとわたしは帰る。

「風声鶴麗」

凍れ凍れ、主を、主の大事なものを壊そうとするもの全て。


襲ってくる輩を一匹、また一匹と倒してゆくけれど、

後から後から湧き出すように人の肝を求める悪鬼の前に

氷麗の力も弱まってゆく。

そのせいで幾つかもろに攻撃を喰らい、背にした氷壁でしたたかに身体を打つ。

やめろ、やめてと悲鳴があがる。

ああやさしい主の友人たち。

この者たちを傷つけられたらきっと主は嘆くだろう。

ふらつく体に己が弱さに歯噛みし、氷麗は色を失くした唇をきゅっと噛み締めた。

きっと及川つららとしての己も。

守らなければ。

地に手をつき、弱った体を支えながら立ち上がろうとした。

だが悪鬼どもは今が好機とばかりにいくつもの火の玉を投げつけてきた。

襲い掛かるいくつものそれはやがて重なり溶け合い、

大きな火の塊となって雪女めがけてやってくる。

氷壁の向こうで、清継が、カナが、鳥居が巻が成す術もなく立ち尽し、

凍りついたようにただその光景を、閉じることを忘れた瞳に映していた。

ああ、と。どうしてそんなにまでして守ろうとしてくれるのかと、

その頬を涙で濡らしながら。

その瞳に映るは残酷にも巨大な火の塊が雪女に襲いかかる様。

ああもうだめだ。

彼らがそう思った瞬間。

それはまるで幻であったかのように消え去った。

火の玉の消えた闇の中、はらはらと舞うは桜の花か。






ほっとした途端、崩れ落ちた体が力強い腕に支えられる。

遠のきそうな意識をなんとか繋ぎ、見上げれば、

朱金の瞳に睨まれ氷麗ははっと身を硬くした。

「口開けろ」

いきなりそう命じられ、何をと問う事も考えることもなく、

主の命に従う女。

だがその刹那、主の所業に大きくその金の輪の目を見開き、

信じられぬ思いで逃れようと抗うが、

弱りきった体での抵抗など、意味を成さず、

せめてもと雪女の本能を抑えてみれば、

僅かに口を離した主は機嫌を損ねられた様子で言うのだ。

「強情を張るな」

そうしてまた唇を重ねられる。

だめ、嫌と心は叫ぶのに、主の強くも暖かい精気が否応無しに注ぎ込まれる。

満ちる力を借りて、抱き込む広い胸を押せば、ようやく口付けは解かれ、

色の戻った桜色のくちびるを震わせ、氷麗は男を責めた。

「何故、何故このような事を」

なのに主は笑って言うのだ。

身を起こした拍子に一瞬ふらつく体を立て直した男は、

その白銀の髪を闇に輝かせ、祢々切丸を手に、

「大丈夫だ」と、

「お前はそこで守ってろ」と、

そして背を向け戦いに挑まれる。

ああその背のなんと凛々しく逞しく、頼りになることか。

雪女は眩しげにその姿を見つめ、胸に溢れる思いを閉じ込めるように目を閉じた。









それではわたしが彼らを明るい所まで送って参りますと、黒羽丸が

離れた場所でじっと佇む清十字団の皆の元へと歩み去る。

やがて「ありがとう!」と遠くから涙ながらに口々に叫ぶ声がして、

それにほっとして微笑んだ雪女だったが、

「氷麗」と名を呼ばれた途端、細いその身を震わせた。

月光の下で佇む男が差し出す手に何故己がすがれようか。

つい先ほど、己がしたあるまじき振舞いを思い、

雪女はいやいやと首を振る。

そんな女に男は一つため息をつき、

そうして、

「おいで、つらら、ほら」

そう、今度は穏やかな春のような微笑でたおやかな昼間の姿で

女を誘うのだ。

恐くないよ、大丈夫だよ。と、

まるで傷ついた獣をあやすかのように差し出された手に、

雪女がふらりと傍寄れば、「捕まえた」と腰に回った腕は夜のもので。

腕の中、涙の滲む瞳で見上げれば、その瞳を大きな男の手が覆う。

暖かな闇の中、「お休みつらら」と昼の声でやさしく囁かれ、

氷麗の意識はそこで途切れた。








若、リクオ様、涼やかな声はいつもそこにあった。

これがなくなる事など考えもしないし考えたくもない。

朧車の中、腕に抱く女をじっと見下ろし、

リクオはその冷たい頬に己が頬をすりりと添えた。

そういえばあれが初めての口吸いとなるのか。

なんとも風情の欠けたものではあったが、

なに、これから先、星の数ほどする予定であるので問題ない。

そう勝手な未来の計画をすでにたて、リクオは改めて思う。

お前が雪女でよかった。

惚れた女に命を分けてやれるなど男冥利に尽きるではないか。

だからそう抗ってくれるなと、

きっちり思いを受けてくれよなんて、

すよすよと眠る女の耳に囁く男の手が僅かに震えるのは

失くす恐怖を押さえ込む為か。

戦うな、傷つくなと言うだけ無駄だとわかっている。

なにせ彼女は己が一鬼。

もっと、もっと強くならねーとな。

決意を新たに、その柔らかな体を、

未来永劫離すものかとぎゅっと胸に抱きこんだ。













「も、申し訳ありませんでした!」

と、翌朝リクオを起こしにきた女は畳に額をこすり付けるように

主の前で伏せている。

それに苦笑を浮かべ、リクオは布団から抜け出ると、

顔を上げないままの女のひんやりとした手を取った。

「つらら」

「は、はい」

「体の方は大丈夫?」

「はい!」

「そう、それは良かった、ねぇつらら」

「はいっ」

「昨日はあんな風情のない口吸いで悪かったね」

「・・・・・・はい?」

「大丈夫、今度はちゃんと雰囲気考えるから」

「あ?い、いえ、あの、え?くくく、くち?」

「場所はどこがいい?うちじゃ誰が覗いてるかわからないしなぁ、

うんそうだ、放課後の学校なんてどう?」

「りりりりリクオ様、聞いてますか、昨日のはくくく、くちとかそんな」

「さて、ああお腹すいたな〜、今朝のおかずはなにかな〜」

「リクオさまっ」

「早くしないと遅刻するよ〜」

「ああ待ってくださいリクオさまーー」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





おまけ




「という訳で昨日は大変だったんだよマイファミリー!」

「そ、そうなんだ、よかったオレサッカーあって・・・」

「怪我がなくてよかったね」

「うんうん、昨日の事で僕も深く反省してね、当分校外での夜の活動は控えることにしたよ」

そうかそれは良かったと、放課後の教室で清十字団の仲間の顔を眺め、

リクオとつららは心底ホッとした。

だが。

「ところで!今まで主に会いたい一心だったが今日からは違う!」

「え?」

「雪女にもう一度会って、是非ともきちんとお礼を言わなければ!」

「「え?」」

リクオとつららが顔を見合わせる中、今度は他のメンバーが同じように声を上げ始め、

「昨日の、すごかったよね!もうほんっと素敵だった!」

「あんなキスシーン見れるなんて、いやぁほんとすごかった」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

当事者を前にそれはもう熱く語る女子メンバー。

リクオがちらりと隣の少女を見ればすでに耳まで真っ赤にして震え俯いている。

「主と雪女はきっと夫婦に違いない!主を捜せば雪女にもきっと会えるはずだよ!」

清継の情熱は昨日のことで更に煽られたようだ。

うん、夢中になれることがあるっていいよね。

リクオが生あたたかい目でそんな呑気な事を思っている横では、

つららが赤い顔をさらに赤くして「めめめめめめめ」となにやら大混乱に陥っている。

「落ち着いて、つらら。妖怪の話しだから、ね」

「そそそそそそうですねっ」

「でも、ほんとに素敵だった・・・、まるで映画のワンシーンみたいだったわ、こう、なんかきらきらして・・・」

幼馴染のカナまでまるで夢見るように言う。

「ふうん、そうなんだ、ボクも見たかったなぁ」

「ほんと確かに怖い思いもしたけどさ、惜しい事したよ、島も奴良も及川さんも!」

握り拳を作り、力強く語る巻に、にこにこと人のいい顔向けていたリクオは

そのままの顔でつららを見やり、

「ほんと、惜しいことしたよね、つらら」

「はうううう」

にっこり笑ったその瞳は眼鏡の奥で金の色を滲ませていたとか。








おしまい