「お休みつらら。いい夢見ろよ」
「はへ?」と、おかしな声を出した時には、目の前から消えて、
残ったのは唇のかすかなぬくもり。
わたしいったい何をされたのだろうか?と
あまりに一瞬の事に夜更けの庭で固まったまま考える。
ええと、夜の散歩に出かけられていたリクオ様を見つけて、
早くお休みになってくださいと声をかけて、
すこうしばかりお小言を言って、そしたら。
「わかったわかった、明日も学校があるからな」
などと言われて、それで、
「お休みつらら」と、
「・・・・・・・・・・・・」
顔をこれでもかと近づけられ、ふいに唇にぬくもりが・・・・・、
ぬくもり・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!!!!」
「見回りにでていて戻って来た鴉に声をかけられるまで庭で固まってたそうですよ」
翌朝、つららの代わりに起こしに来た首無がそうリクオに伝え、
無い首をやれやれとばかりにふるふると振る。
「ねぇ首無、それってやっぱりもっと慣れなきゃだめってことだよね」
もっと慣れたら一晩中固まるなんてこともなくなるだろうし、
などとリクオは不穏な発言をする。
「それはそうですが・・・リクオ様」
「なに?」
「とりあえずそれ以上先に進むのはいささかまだ早いかと思われますので」
リクオの気持ちもわかるが雪女もかわいい首無は、
暴走気味の若君をなんとか留めようとする。
「わかってるよ、うん。今はまだ、ね」
にっこりと笑うその笑みがちょっと怖いですよリクオ様と、
朝からため息を漏らす首無の心労は日々重なるばかりである。
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