奴良リクオの正体



うちのクラスに皆が「良い奴」と呼ぶ

その名も奴良リクオという人の良い、悪く言えば利用されやすい残念な奴がいる。

日直やら掃除やら忘れた宿題も奴に頼めば「いいよ」と

助けてくれる、かくいう自分も何度かお世話になっていた。

いつもニコニコ穏やかな笑みを浮かべていて、

あれはきっと心底ただただお人よしなのだろう。

こちらとしては助かるが、あいつの将来の事を考えるといささか心配にもなったけれど。

きっと大学行っても会社に入ってもいろいろ頼まれ続けるんだろうなと。

そう、ついさっきまで。




「あれ、奴良じゃね?」

仲間の一人がそう声をあげたのは、これからカラオケに繰り出そうとし

て集合していた公園での事だった。

そいつの視線を辿れば、確かにその先に見慣れた姿。

「ほんとだ、ちょうどいいじゃん、あいつ誘えばあっちの女子と人数合うぜ」

さっそく声をかければ、「やぁ皆」といつもの笑顔。

「なぁなぁおまえ今暇?これから俺たちカラオケ行くんだけどさ」

「みんなでカラオケなんだ。楽しそうだね」

「だろ?よかったお前がいてくれてこれで数揃うよ」

「え?」

「え?」

そこで顔を見合わせ黙り込む友人と奴良。

「揃うって?」

「だからカラオケ、おまえラッキーだぞ、一緒に行く女子、蘭女の子達だし」

そこでまた沈黙。

「あーそうか。ごめん、誘ってくれて悪いけどボク今デート中なんだ」

「え?」

ごめんこの「え」は俺たちカラオケ組全員の声だ。

周りで二人のやりとりを聞いていたわけだが、奴良の答えに思わず驚いてしまったのだ。

「え?おまえ彼女いるの?」

「うん」

「デート中なの?」

「うん」

そうにこやかに頷く奴良に、

俺たちはどこだよどんな女だよと周りを見回していると、そこへ。

「リクオさまー」

鈴が転がるような声。というのを生まれて初めて聞いた気がした。

「あ、つららこっちこっち」

たたたたと駆け寄って来た一人の少女にその場に居た全員が固まった。

美少女というものを生まれて初めて見た。

日の光を受けてきらめく長い黒髪がさらりと揺れる。

一度も日に焼けた事のないような白い肌。

ごくりと生唾を飲み込む俺たちの目の前で、

「あれ?アイスは?」

「す、すみませんお財布忘れてしまいました」

「ドジだなぁ」

・・・・奴良・・・その(よしよし)と頭を撫でる行為・・・死ぬほど羨ましいぞ。

そこ代われ。

っていうか、まさか。

「ぬ、ぬら・・・その子、おまえの彼女なの?」

「うん」

にっこり肯定。

うそだろーーーーーっ

なんだか男として人として

全てが目の前の男に負けた気がしてがっくりきていた俺たちだったが、

その時、中の一人(自称イケメン君、今回のカラオケ主催者)が

がしっと強引に奴良の肩を抱き、お通夜状態の俺たちの輪に引きずってきた。

そして、内緒話でもするように、奴良の耳元で。

「なぁ奴良、おまえあの子に「様」って呼ばせてんの?なんかプレイ中?

他のクラスの奴にはおまえの趣味黙っててやるからさ、おまえの彼女

少し貸してくれよ、カラオケに二時間くらいでいいからさ」

・・・・・こいつ頭大丈夫か?

そいつ以外の皆がそう心配するようなおかしさ。

いくら人の良い男でも自分の彼女、それもあれほどの美少女を、

まさか・・・「いいよ」なんて言うわけないよな?

で、でももし「いいよ」だったら・・・あの美少女と・・・・。

思わず全員が固唾を呑み、奴良の返事を待って・・・・そして。





後悔というのは後から悔やむという意味なんだな・・・。

あの時の恐怖を俺たちは生涯忘れないだろう。















「目を開けながら寝言言うなんてすごいね」
















この世には怒らせてはいけない者が存在するのだと

俺たちは身をもって知ったのだった。



















ちくしょう、それでも羨ましいぞ奴良リクオ、一枚だけでもいいから写真くれ!

「うん?なんだって?もう一回言ってみて」

「すみませんごめんなさいもう言いません」










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