ー春の舞いー
















「満開だー!」

「満開ですよー!」

わぁいと幼子と少女が広い庭の中ではしゃいでいるのに気づき、

濡れ縁に座り込み煙草を吸っていた鯉伴は目を細めた。

その視線の先で息子が雪女とどうやら舞を舞い始めたようだった。

「若様、手の指はこうですよー」

「こうー?」

「お上手です!ハイ!ではここでくるりと回ってー」

「まわってー」

「二回パンパン」

「パンパン!」

・・・・・・舞いというよりもありゃ音頭か?まぁなにやらとても面白いが。

その幼い息子の後ろで小さな妖怪たちも一緒になってパンパンと。

いやなんか、すんごい微笑ましい光景じゃねーか。

などと笑っていると息子が雪女の袖をくいくいと引っ張っている。

「ねぇねぇつららー」

「はい、若!もしかして疲れましたか?そろそろおやつにしましょうか?」

「ちがうよー、ちょっとしゃがんで?」

「?はい?」

「これさっきボクの手に落ちてきたのつららにあげる」

「あら、綺麗ですねぇ。良かったですね若、きっと枝垂れ桜からの贈り物ですよ」

「うん、じゃあつらら目ーつむって」

「はえ?」

「いいからはやくー」

「は、はい!こうですか?」

「いいって言うまで開けちゃだめだよ」

いやいやおまえ何するつもりだとそれを眺めていた鯉伴は予想はついたが呆れていもいた。

齢三歳にしてそれか、さすがオレの息子と言うべきか恐るべしぬらりひょんの血と言うべきか。

もちろん鯉伴の予想通り、

「はい!いいよつらら目を開けて」

「な、なんだったんです?」

「へへーないしょー。ほらみんなあっちで隠れ鬼やろう!」

ばたばたと小妖怪達と駆けて行く主の背をポカンと見送る雪女の艶やかな黒い髪に

薄桃色の髪飾り。

そっと髪に触れ、そっと桜の花を添えた小さな手は瞳は真剣そのもので。

ああリクオ。おまえのそれが叶うといいなと、

遠い昔同じように淡い恋心を抱いた雪女を思い出す。

まぁすぐに鬼ばばぁと呼ぶようになったのでアレな思い出だが、

こちらの雪女は桜も霞むほど頬を染め立ちすくんでいる。

おまえリクオ、ガキの癖してわかってるじゃねーか。

雪の化生なのになんと桜の似合うことか。





「つららも早くおいでー!」

「は、はいぃぃぃ」


息子と雪の娘の今後がなんかものすごく楽しみになった鯉伴であった。












ブラウザバック