「まだ帰りたくありません」















なんて、好いた女に言われた日には、応えなきゃ男じゃねーだろと。

月光に輝く白い頬を桜色にほんのりと染めた雪女。

これはもう誘われてると思わざるを得ないわけで。

「つらら」

振り返って両手を差し出せば、誘ったくせにその金色目をぐるぐると回し、

きょろきょろと周りを気にしている。

「誰もいやしねーよ、ほら」

共に戦う女の、強く、けれど細い腕がそっと伸ばされ、

指先がようやくこの手に辿りつく。

ひんやりとした身体を抱きしめ、つららを存分に堪能する。

月の下、桜に包まれながら雪女を抱きしめる。

なんて贅沢な夜。

「つらら」

「はい」

「気持ちいいなぁ」

「・・・はい」

「朝がくるまでこうしていようか」

「そ、それはダメです!リクオ様は明日も学校ですよ」

つれないことを言う女の口は塞ぐに限る。

説教は朝になってから昼のオレが正座で拝聴させてもらうとして、

誘った責任は最後までとってもらわないとだめだろ?

今更否やは無しだぜつらら。

「ふぁっ、やっ・・・リク」






イトシイイトシイと桜(はな)が散り、まるで雪のように頭上から降り注ぐ。

儚い命なればこそ、切ないほどに美しく。

けれどこの手の中のひとひらは、

永久に融けることのない真白き雪の一片。








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